テラヤマキャバレー

 

あなたは寺山修司を知っていますか?

 

と問いかけられれば、私は「名前だけは、詩人...だよね?」というレベルの認識しかなく、そこから彼の功績も人生も特に調べず観劇に赴きました。
これは知識を入れずに観たい、まっさらな状態でどう感じるのか知りたいという思いからそうしたのですが、結果、舞台上で行われてることが本当に意味が分からず(特に1幕)これはどういった舞台なの???と幕間で頭の中?でいっぱいにして、「ああこれは考える舞台じゃないな。ただ観たものをそのまま受け取ればいいな」と思考を切り替えてからは何も考えずに観てました。
1幕から多分好き嫌い分かれるんだろうなと思ったのですが、個人的にはメチャクチャ楽しかったです。
なんというか演劇を観た!!!という気持ちになって次の日までも昨日の舞台楽しかったな、とニヤニヤと思い出してしまうぐらい楽しかったです。

そこからパンフ読んだり、図書館で寺山修司の書籍を借りて、彼の人生を知ったうえで舞台を振り返ると、寺山修司の人生のラスト数時間の幻想の出来事で、彼の人生に重要な意味を持った人物を劇団員として登場させ、”寺山修司”を観客と共に振り返るというシンプルな構成だったということが分かります
個人的に寺山修司は前衛演劇グループ「天井桟敷」の主宰者であったことだけは知ってから観劇した方がいいかな、と思いました。
それすらも知らなかったが故に冒頭何故劇??とか思っていました。

今回宝塚からかちゃこと凪七瑠海が出演されてたのですが、これがもうめーっちゃくちゃ良かったです。何で現役タカラジェンヌがキャスティングされたの??と不思議だったのですが、本当ナイスキャスティングだったと思います。お芝居と役がとてもマッチしてました。なんていうか予期せぬ喜ばしい化学反応だな、と。
香取慎吾が1幕が良くも悪くも人間的なのでタカラジェンヌというフェアリーが死という役を演じているのがすっごくはまっていました。

真っ黒い衣装の香取慎吾と真っ白な衣装の凪七瑠海がメチャクチャ良かったよー良かったー。
終盤は一転して香取君の方が浮き世離れ感を増して、死の方が、寺山がこの世から去ることを厭うような台詞を言うんだけど、そこの対比もお芝居も凄く良かったです。
香取君は当たり前に初めましてだけど(もっと早く壮ちゃんのファンになってればオーシャンズ11で観れてたのかしらって思った)、終盤はなんか彼をずっと観ちゃってましたね。推しが観たいなと思うんだけど、でもなんか不思議と目が離せなくて気が付いたら彼を観てるなと思いました。なんか観ちゃう。
ドン・ジュアンの藤ヶ谷君みたいに香取君が寺山修司を演ることが前提の舞台だと思うのですが、その説得力を凄く感じました。彼ありきの舞台だなと。
それにしても子供の時からTVで観てた人を生で観れるなんて本当不思議だなと今でもふと思ってしまいます。
カーテンコールでは凄く笑顔でニコニコして嬉しそうだったのを見て良かったねー良かったねーという謎の感情になってしまいました。(SMAP解散から何年経ってると思ってるんだ。。。)

壮ちゃんは冒頭複数人の劇団員と一緒に黒い布を被り仮面をつけて登場するんだけど、全員同じ格好なので誰が誰だか分からない状態だけど、多分推しだなと思ったらちゃんと推しでした。もう動きで分かる。
「暴言」という役名。
でも衣装はなんか三島由紀夫っぽいなと思ったら、本当に三島由紀夫役だった。
これがなんかメチャクチャ良かったんです。
本当めーっちゃ良かったんですよ。
個人的に三島由紀夫役を演じて貰いたいなと思ったことは一度もないのですが、暗転後セットの上部から「テラヤマーーー!!!」と叫び声が聞こえてきた時、あっ、これは最高、とヤラレテしまった。
その後、未来へ行ったシーンでは自分たちの言葉が忘れ去られている絶望と悲壮を纏わりつかせ舞台上に存在している姿も美しかったし、終盤ブレイクダンスかますのも良かった。あまりにも自分が観たい平間壮一が観れ過ぎた故、ブレイクダンスした瞬間、「サービス??」とか思ってしまった。
「そっちはどうですか?」の問いに「君も来たら分かるさ、」の言い方が本当堪らなかったな。
劇団員としての暴言で、みんなを巻き込んで色紙ばらまいて「どうせみんな借り物なんだから借りまくっちゃいましょうよー」と明るく言い放つ姿に思わずRentの最後の歌詞「'Cause everything is Rent」を思い出してしまった。「だって全ては借り物だから」だけど、ブロードウェイの円盤では「全ては神からの借り物」という訳でまさに今回の劇に当てはまる台詞。
「全ては神からの借り物」なんて如何にもキリスト教圏の台詞だなと思ったけど、寺山修司の夢の中、全てがごちゃまぜでカオスな世界にまた似合ってしまうのは不思議な気分でした。
曽根崎心中の人間浄瑠璃村川絵梨さんと一緒にまぁー素敵だった。
個人的には1幕ラスト付近2人でセットの上部で台詞なく心中シーンを再現してるのがとても好きでした。なんというか2人の世界で。

伊礼彼方氏も成河さんも良かったー
成河さん冒頭良く分かってなくてまじであんなシンバルをバンバン落とす役なのは新鮮というかなんというか愉快でした。舞台観劇であんまり沸かない種類の愉快でした。
伊礼彼方氏は居ないなと思ってたら途中からインパクト抜群の役でご登場。ご本人も言ってたけどあまり演じたことがない役で新鮮でした。それにしてもこの二人揃ってるのにミュージカルじゃないのはちょっと残念な気もしますね。今回の舞台は寺山修司作詞の楽曲達の音楽劇で正解なのですが。
2人共お芝居に凄く説得力があって、成河さんの唐十郎とか演じてる時間は長くないけど、寺山修司との空気感で台詞がなくても何もなくても何かがあったと分かるお芝居だなと思いました。
本当にそれはこの2人だけでなくて今回板の上にいる役者さん全員がそういう観客に説得力を与えてくれる演技だったなと思います。
初めましての横山賀三君は雰囲気のある歌うまな役者さんでしたね。
多分他の舞台・役でも上手に演じていると思うのですが、彼の雰囲気が今回の舞台にマッチして目が惹かれる役者さんでした。
というかはじめ女優さんかと思ってました(笑)
福田えりさんは元妻役ということで寺山修司をリスペクトしているし愛情はあるんだろうけどどこかビジネスライクの渇いた印象があったけど、横山賀三君の田中未知は愛憎や未練を感じられる湿っぽさがあったな。

お話については寺山修司をもっとよく知っていれば楽しめただろうし、もっと深く理解できたと思うのですが、限度もありますし、全てのネタを拾わなくていい、全てを理解できなくてもいいかなと思ってます。分からなくても十分楽しめました。逆に突き詰め過ぎると寺山修司の解釈違いだ!ってなりそうな気がする(笑)
と言いつつも図書館で借りてきてまだ読めてない書籍もあるので、またページをめくった時に、ああそうだったんだ、と目が覚めるように気付ける瞬間が訪れるなら、それはそれで楽しみとしてとっておきたいです。

ちなみに今回2回観劇したのですが、1回目と2回目の間に読んだ書籍は下記です。
・回想・寺山修司 百年たったら帰っておいで (角川文庫) 九條今日子(著)
寺山修司に愛された女優---演劇実験室◎天井棧敷の名華・新高けい子伝 山田勝仁(著)
チョイスとして正解なんかって感じですが、伝記は貸出中だったのもありこの2冊。(そして回想・寺山修司~は今気づいたのですがKindle Unlimitedで読めますね)
回想・寺山修司~は劇団でのお話が多くて劇の冒頭、寺山に劇団員達が名前をくださいと求めるシーンがあるのですが、あれは実際に寺山修司が劇団員達の芸名をつけていたことのオマージュなんだとこの書籍に記してあって知りました。

兎に角舞台は本当に楽しかったですし、今回の作品が自分が楽しいと思えるオリジナルで良かったなと思います。
クリエイターが渾身の想いと才能を込めた作品を役者が最高の表現力で観客に届ける。
優しくではなく暴力的に。
殴られたような衝撃は何物にも代え難く気持ち良い。
極上のエンターティメントはそれはそれで気持ち良いことも知ってるけど、舞台での楽しいことに外野の色んなことは影響しないで欲しい。
推しが観たくて取ったチケットでしたが、今の自分の心境やその他排除したい雑音を直前で耳に入れてしまったことも込みでタイミングが良かった舞台なのかな、と思います。