【The View Upstairs -君が見た、あの日-】vol.1

 

めちゃくちゃ公演内容ネタばれしてるので、要注意です!!!

 

あらすじを読んだ時の印象は、多分自分は好きな作品だろうなという思いと、推し幸せにならなさそうでした。
先日のJMFの時にTVUチームが参加した時に「火事のお話だと重くならずに観にきてほしい」(意訳)と推しが言っていて、それはテーマ的に無理では???と思ったんだけど、やっぱり軽い気持ちで観劇に挑めない作品だなと思います。
盛り上がる曲や楽しい!って曲もあるのでそれを楽しんで欲しいと思う気持ちも分かるけれど、やっぱりこの作品は観終わった後に頭フル回転して色々考えたり、心をぐるんぐるん動かしながら感情を噛み砕いて咀嚼したい作品だなと思います。
個人的に観て良かったなと思える作品でした。

 

物語は現代を生きるファッションデザイナー、壮ちゃん演じるウェスがN.Y.を離れ、ニューオーリンズのある廃墟と化した建物を購入するところから始まります。
「このパンデミックの最中、」という台詞でコロナ禍の世界線の2022年の作品であることを提示。
ウェスはデザイナーとして行き詰まりを感じて、故郷に帰ってきたけれど、そのことを配信で茶化してフォロワーに報告することが出来ない。のっけからインスタだとかインフルエンサーだとか、彼の焦りと大事にしてるものが台詞に組み込まれてて、ウェスは現在を生きる人間だなぁと凄く印象的でした。

一世一代の買い物をしたこと、焦る気持ち、負け犬になりつつある現状を受け入れられなくてクスリでハイになった彼が目を覚ますと、そこは彼が購入した建物の約50年前の姿、ゲイバー「アップステアーズ・ラウンジ」。
突然知らない場所、知らない人達に囲まれて困惑しているウェスと突如現れた自分たちの居場所を奪おうとしているかもしれないウェスに警戒心を抱くアップステアーズの常連客。
会話を交わしてウェスは自分が70年代にタイムスリップしたことを知るのだが、それは現実ではなくあくまでクスリでトリップしてしまったからだと捉え、この状況を楽しもうとする。
ここ、凄く上手いなと思いました。タイムスリップものってタイムスリップしたことに焦り、元の時代に帰ることが目標になりがちだけど、ウェスの場合はクスリの所為だ、すげぇなぐらいの感想しか持ってなくて、どうやったら元の時代に戻れるんだろう、とかこの時代でどうやって暮らしていけばいいんだろうって悲壮感が全くなくて、2022年の価値観を最後まで失わずに居たのが凄く良かったです。
結局彼が最後まで自分が約50年前にタイムスリップしたことに気付いていたかどうかもはっきりと分からなかったけど、ラストを観た時に、そのことはこの作品にとってさほど重要ではないのかな、と思ったので、どっちでもいいかなと思っています。

登場人物が板の上に勢揃いして改めてキャストを眺めると、本当に小関君はスタイルが良くて美人さんで華があって目がついつい引寄せられました。

この小関くん演じるパトリックにウェスが恋に落ちることに私は凄く納得したんですね。自分に自信がなくて自分の居場所や位置を必死に模索してるウェスにとって、美しくただそこに居るだけで人目を惹くパトリックの存在は彼が欲しくて堪らない存在だったんじゃないかな。。
それと同じくパトリックがウェスに惹かれる過程も凄く納得がいきました。
ゲイであることが犯罪者である時代で、警察官による脅しや嫌がらせが日常茶飯事、自分達の居場所を守る為に賄賂を渡さなきゃいけない。それが当たり前で反抗することなんて考えてもしなかったパトリックにとって、2022年の価値観を勢いよく捲し立てて、丸ごと否定されてた自分達を全て何も間違ってないと肯定するウェスは凄く魅力的に見えて、恋に落ちるのは必然だったんじゃないかな。
このシーン、警察官とやりあう壮ちゃんに目が行くと思うんですけど、小関君がウェスに恋に落ちる瞬間を凄く良い演技で表現してくれてます。小関君だけじゃなく壮ちゃんもパトリックに惹かれる過程を凄く丁寧に演じているので、私はこの2人が出逢って恋に落ちることは凄く自然だと思ったし、分かる、と思いました。

一方、もう一人分かり易いのがデールで、彼は登場から凄く分かりやすく孤独で異彩を放ってるんですよね。
東山さんが当たり前だけど凄く良くて、デールの普通になれない苦しみや、普通ではないと言われてしまう理不尽さが舞台上から痛いほど伝わってきました。
多分デールはゲイの男性という側面と現代でいう発達障害や精神病といった苦しみを抱えていたのではないかなと思ったのですが、そこも全部丸っと一括りにされてしまう悲しみや辛さがよく伝わって来たので、本当になんか観てて凄く辛かったです。
東山さんのデールは歳を取ったからこそ、何をしてももうこいつはダメだ、みたいな諦めを周囲が持ってしまっていたけれど、役柄的にもう少し若い役者さんがやってもいいのかな、と思いました。
若さ故の痛々しさと希望が見える筈なのに、どうにもならなさが勝ってしまうそんなデールも見てみたいなと思いました。

冒頭、不動産屋が「昔、ボヤがあったんですよ、」と物件についてウェスに伝えるシーンは最悪の事件があった筈なのに忘れ去られている悲劇を象徴するかのような台詞で印象的でした。
私は観劇後、ウェスはあの火事の瞬間、現代に戻ってこれたと解釈したんだけど、観劇から1日経つと、元々ウェスはタイムスリップしてなくて、あの出来事は全てパトリックの亡霊が見せた幻なのかな、という気もしてきました。
忘れられたくないという思念の残がウェスが来たことによってあの空間を作り出したみたいな。。。
初めにウェスが約50年前にタイムスリップしたと気付いてたかどうか分からなかったけど、別に重要視していないって書いたのはラストの解釈を自由にしていいんだなと思ったからです。

タイムスリップしたか、しないかはこのお話では私は重要ではないかな、と思っています。
70年代のゲイの青年に「同性同士で結婚できるようになる」や「黒人の大統領も誕生する」はきっと嘘みたいな話で、それを無邪気に話すウェスはどう見えたんだろう。
それと同じぐらいフォロワーやいいねの数、自分の立ち位置が分からず必死に他者から認めてもらうことをアイデンティティとして模索する姿もどう見えたんだろう。
未来では同性愛者も認められるよ、だから希望を持とう、という話じゃなくて、性的指向が認められたってそれ以外で生きることが苦しいことには変わりない。
70年代よりは認められているけど、国民の半分はホモファビアだし、悪意を持った銃乱射事件は21世紀になったって起こっている。
この火事を目の当たりにして、未来はよくなってるよと言っていたにも関わらず、良くなってないことを告白しなきゃいけなかったウェスの演技が凄くよかった。
平間壮一の魅力が凄く出てた。
Rentでマークを演じた時、エンジェルのお葬式のシーンやIn the Heightsのアブエラの思い出を語るシーンのようにスイッチが入ったみたいに壮ちゃんのお芝居で劇場の雰囲気が変わる時がある。
空気が変わって、観客の集中が高まる瞬間がある、と思う。

私は壮ちゃんのファンだからそれ以外にも沢山いい所も魅力も知ってる。
好きなところが沢山ある。
けれど、ファンで良かったなと思うのは、あの場を支配するお芝居を観た時に一番感じるのかもしれない。
今回も凄く良かった。観れて良かったなと思う。改めてファンで良かったなと思った。

 

観客が全員着席した後に上演中止を発表した舞台があったらしく、その情報を聞いてから劇場についても凄く怖かった。急に「本日の公演は中止とさせて頂きます」ってアナウンスあったらどうしようって席についてもずっと怖かった。幕が上がった瞬間、本当にホッとしたし、凄く嬉しかった。本当に観れて良かった。
(特に最近、コロナの所為で花組が観れなかったので、また観れなかったらどうしようって凄くナーバスだった。。。)

 

コロナ禍になって、「頭空っぽにしてみれるハッピーな作品がみたい。今わざわざ悲劇を観たくない」って思うことが増えたし、そういう作品を選んでるけど、それでも観劇後に頭いっぱい使って考えて、答えは出ないけど考えて、心が動かされる作品に出会えるってやっぱり凄く幸せなことだなと思った。
この作品に出会えて私は凄く幸せだなって思った。
本当に薄氷を踏むような毎日だけど、それでも私はまたアップステアーズ・ラウンジのみんなに会いたいと思う。
今回兎に角感想忘れない内に書いちゃいたいと思って、勢いよく思いの丈を書いたのですが、他のキャストの方も本当に素敵で、勿論作品に対してもキャラクターに対しても書きたいことはあるので、また観劇を重ねて改めて感想を書けたらいいな、と思う。
本当、チケットはあるから観させてくれ!!!